 | ワインブーム前夜 |
長谷川優・規子夫妻が、六本木に【マルズバー】を開店したのが1994年。ウィスキーのショットバーのような感覚で、好きなワインをグラスで飲むことができる、そんなワインバーがあったら楽しいだろうという思いでオープンされたのだという。ところがオープン当初はなかなか客足が伸びず、ワインと一緒に出しているチーズも、ウォッシュ系・青カビ系は敬遠され、売れ残ることが多かったそうだ。
確かに1994年当初には、まだワインやチーズに関する知識や楽しみ方は広く知られていた訳ではなかった。今となっては知られるようになった“ソムリエ”や“ボジョレー・ヌーヴォー”“ウォッシュタイプのチーズ”などといった言葉でさえ、まだごく一部の人たちのものだったのだ。
ところが翌1995年、第8回「世界最優秀ソムリエコンクール」で、田崎真也氏がアジア人としても初めての優勝を果たしたころから、徐々に日本のワインブームに火がつき始めた。「ブルータス」などの一般雑誌でもこぞってワインの特集が組まれるようになり、【マルズバー】も様々なところで紹介されるようになった。同店の、多くのワインを取り揃えて一度に色々なワインを体験できるワインバー、というコンセプトは、まさにその当時のニーズに合致しており、偶然のこととはいえ、結果的には絶妙のタイミングでの開店となったのだ。
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 | マルズバー |
【マルズバー】は「カウンターに6席、4人掛けのテーブル席が一つ」という、小さなバーだ。決して大人数で押しかけてワイワイと飲むというタイプの店ではなく、一人か二人で訪れ、静かにグラスでワインを楽しむお客さまが多い。しかし、店構えは一見こじんまりとして見えるだけで、ワインの品揃えは「500本(自宅セラーも含めると2,000本)」という規模で、その多くがフランスワインだという。一時は多かったカリフォルニアワインも少なくなりつつあるのだそうだ。
厨房に立つ御主人(長谷川優氏)は、洋食店「香味屋」で料理の腕を磨いてきた本格派で、その腕は確かだ。特にトロトロのカニクリームコロッケ、メンチカツ、冬なら3日かけて作るテイルシチューが評判が高く、ワインの仕上げにオムライス、稲庭うどんといったメニューも供している。一見無口そうな風貌の御主人だが、訊かれれば専門的なことまで笑顔で答えてくれるため、ワインについての質問などをしてみるのも良いだろう。

中を取り仕切る規子夫人も、あまり出過ぎることない接客で、ワインやチーズの丁寧な説明をしてくれる。こうした家庭的な雰囲気が同店の最大の魅力であり、常連客が8割を占めるというのも納得できる。また、ソムリエ試験が近づくと、テイスティングの勉強のために来店する人たちも増えるのだとか。
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おすすめワイン5グラス |
同店のメニューの中では、「おすすめワイン5グラス」(5,250円)が特筆される。これは、食前酒としてシャンパンまたはシェリー酒から一杯。料理に合わせて白ワインを一杯。そして赤ワインを2種類(リーズナブルなものとちょっと高価なもの)。最後にチーズなどといっしょにデザートワインを一杯という、計5杯のワインが楽しめるセットだ。もちろん、チーズとこの5グラスのワインでも、料理の後のワインとして楽しんでもよい。
それぞれのワインを5、6種類の中から選ぶのだが、このセレクションは2週間に一度は変更される。規子夫人からは、全てのワインの味や生産者のエピソードなどを織り交ぜて説明が聞けるため、バラエティーに富んだワインをよりおいしく味わえることだろう。
しかし、【マルズバー】のようにグラスでサーヴィスするシステムの場合、その残りをどのように管理しているのか気になるものだ。同店の場合は、隣にある姉妹店「ビストロ・マルズ」でも合わせて使われるため、大部分はその日のうちに売り切ることができるのだそうだ。ただし、季節限定のワインなどもあり、人気のあるものは早々に売切れてしまうこともあるため、店に通ってワインが切り替わるタイミングを覚えると良いだろう。
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 | チーズとワイン |
【マルズバー】ではチーズも豊富で、常に「20種類前後」が用意されている。オープン当初には、ブルーチーズには蜂蜜をつけて食べてもらうなど、より食べやすい食べ方を説明しながら供されていた。しかし、チーズの楽しみ方が知られてきた最近では、ウォッシュ系の熟成したクセのあるものを好むお客さまも増えてきているのだそうだ。特に人気となっているのは、マール酒で表面
をウォッシュした『エポワス』で、同じブルゴーニュ地方のワインを合わせたり、カリフォルニアのメルローも合うのだとか。
今回は塩気の強いブルーチーズ『ロックフォール』に合わせて甘口のデザートワイン「ソーテルヌ」をいただいたのだが、甘さと塩気のバランスが絶妙で、その取り合わせは見事なものだった。ブルーチーズにはよく甘い果物を合わせたりするが、ワインでもそのバランスが味わえることに驚かされた。
さらに、どんなワインにも合わせやすいという『ミモレット』には、ビオディナミ農法で作られたワイン「フルール・ド・ロータス」を合わせてもらったが、軽いとか薄いのではなく、これまで味わったことがないほどの爽やかな印象のある味わいだった。
チーズには「ビストロ・マルズ」で焼いている自家製のパン(バケット、クルミ、カレンズ)も用意されており、こちらも楽しみにされると良いだろう。
ワインやチーズのことに詳しくなくとも、気負うことなく肩の力を抜いて楽しみに出かけられる、そんなお店として【マルズバー】はお薦めできる。ただし、座席数を考えれば事前に予約をとった方が安全だ。特に金曜日が混むが、木曜日は比較的空いていることも多いとのことであり、ぜひ出かけてみて欲しい。 |